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最高裁判所第三小法廷 昭和48年(オ)839号 判決 1974年7月16日

上告人

村越光義

外一名

右両名訴訟代理人

山中順雅

被上告人

矢畑禎次

外七名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山中順雅の上告理由について。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて上告人敏男が本件事故について自動車損害賠償保障法三条所定の自己のために自動車を運行の供用にする者としての責任を負うものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(高辻正己 関根小郷 天野武一 坂本吉勝 江里口清雄)

上告代理人山中順雅の上告理由

一、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

(一) すなわち原審控訴人村越敏男は自動車損害賠償保障法(以下単に自賠法という)第三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」=いわゆる運行供用者でないのに原審が右村越敏男を運行供用者であると認定し自賠法第三条を適用したことは法令の解釈を誤つた場合にもしくは法令の適用を誤つた場合に該当するものと言うべきである。

(二) 自賠法第三条のいわゆる運行供用者の解釈については「運行利益」の帰属と「運行支配権」の有無が根本的原理となつており、この両者のメルクマールが具わつているかどうかによつて「運行供用者」の成否が決定されると言うのが通説のようである。

(三) 前記村越敏男の自賠法第三条に基づく責任について考えてみるに第一審における証人村越トヨ子の証言、被告村越光義本人尋問の結果、第二審における控訴人村越敏男本人尋問の結果ならびに第一、二審の本件口頭弁論の全趣旨によると、

(1) 村越敏男が村越光義の父であること。敏男が事故の年の二月、当時商業専門学校在学中で一七才の光義のため本件加害車(第二種原動機付自転車)を買い与えた(卒業を目前にひかえた光義のためお祝として通勤用にプレゼントした)ものであること。

事故当時父の敏男は船に乗つており月一回程度陸に上り車については無免許であつて右原付自転車を操縦できなかつたこと。

また敏男の家は商売もしていなかつたので商売上、加害車を使用することもなかつたこと。

所有名義は当初かり光義名義であつたこと。

光義は事故の年の三月一〇日前記学校を卒業し同年四月四日から今治市内の中央自動車修理工場に修理工として就職し、敏男方から通勤していたこと。光義の給与は一ケ月一万五、〇〇〇円の約束であつたが、本件事故時(昭和四三年五月一日)までは給与を貰つていなかつたが、就職一ケ月後の五月三日に一万五、〇〇〇円受取つていること。事故後二年位たつて右工場をやめたこと。

その修理工場就職中の二年間毎月一万円程の金を家(敏男)に入れていたこと。敏男は光義に車の運行について指図したこともないし、指図する必要もなかつたこと。ただ「気をつけてのれ」と言つていたに過ぎなかつたこと、が認められるのであつて「運行利益」は光義に帰属しておりまた、運行支配権が敏男になかつたことは明白である。

(2) 原判決はその理由で光義が本件事故当時までに要した本件加害車の保険料その他の経費は敏男が負担したものでありまた本件事故当時光義はその生活を全面的に父である敏男に依拠して営んでいたもので、いまだ独立して生活する能力を有していなかつたから、父敏男が運行供用者の責任を負うべきだとしているが、ここが問題のところであり、早合点と言うべきである。

光義はいうなれば商人が商売開店するために銀行より金融を受け、設備をし、商品や資材を買入れて準備するように就職した際の通勤用のために父に買つて貰つたものである。

後に一万円あて家に入れておるのであるから(車両の代金は一一万円であつたが光義が家に入れた金は二年間で約二四万円となる)父から車両をプレゼントされたことは、銀行から金融を受けているのと類似の行為である。

原判決は更に光義がいまだ独立して生活する能力を有していなかつたと言うがこれはどういう意味か。

右車両の維持費(ガソリン代は修理工場が無償提供していた)も買受代金も結局は光義が二年間で全部支払つたことになるのである。父敏男が立替払した段階(右説示によれば商人が銀行から金融を受けた段階)で独立性がないと断ずるのはそもそも納得のいかない話である。

原判決はとにもかくにも父親である敏男に運行供用者責任を負わそうとするためのコジツケである。被害者救済のための無理な拡張解釈である。

法律の定めが被害者救済に欠けるところがあれば法律を改正すればよいのであつて、安易な拡張解釈は法の威信を傷つけるのみである。

以上原判決は違法であり、破棄されるべきである。 以上

<参考・第二審判決理由・抄>

三 そこで控訴人村越敏男の自賠法三条に基づく責任について検討するに、<証拠>を綜合すると、控訴人村越敏男は、控訴人村越光義の父であるが、昭和四三年二月頃当時商業専門学校(二年制)在学中で一七才(昭和二五年一二月一六日生)の控訴人光義のために本件加害車(第二種原動機付自転車)を買い与えたものであること、控訴人光義は同年三月一〇日前記学校を卒業し、同年四月四日から今治市内の中央自動車に自動車修理工として就職し控訴人敏男方から通勤していたものであること、控訴人光義の給与は一ケ月一万五〇〇〇円の約束であつたが本件事故時までは一度も給与を得ていなかつたこと、したがつて、本件事故当時までに要した本件加害車の保険料その他の経費は控訴人敏男が負担したものであり、また、本件事故当時控訴人光義は、その生活を全面的に父である控訴人敏男に依拠して営んでいたもので、いまだ独立して生活する能力を有していなかつたことなどの事実を認めることができ、右事実によれば、控訴人敏男は、本件事故について自賠法三条にいう運行供用者としての責任を負うものと解するのが相当である。

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